はじめまして。
医療ライターの佐伯真紀と申します。
もともとは医療系出版社の編集者で、妊娠・出産や不妊治療の書籍を10年ほど作っていました。
そして私自身、30代後半から40代前半までの5年間、不妊治療の当事者でした。
タイミング法から始めて、人工授精、そして体外受精へ。
移植の回数は途中で数えるのをやめました。
判定日のたびに告げられる「今回も陰性でした」。
あの診察室の沈黙は、経験した人にしか分からないと思います。
主治医から「卵子の質の問題かもしれませんね」と言われたとき、私は正直、意味が分かりませんでした。
質って何。
どうすれば上がるの。
そこから編集者時代の癖を総動員して、学会資料や公的機関の一次情報を調べ尽くしました。
この記事は、当時の私と同じ場所に立っている方に向けて書いています。
「卵子の質」とは何か、着床しない原因はどこにあるのか、その先にどんな選択肢があるのか。
調べて分かったことを、出典付きでまとめました。
Contents
「卵子の質」の正体を知る
卵子は生まれたときから減り続け、増えない
まず、私が一番驚いた事実からお話しします。
卵子のもとになる細胞は、女性がまだ母親のお腹にいる胎児のときに作られ、その後は一つも増えません。
日本生殖医学会の解説によると、卵子の数の推移はこうなっています。
| 時期 | 卵子(卵母細胞)の数 |
|---|---|
| 出生時 | 約200万個 |
| 思春期 | 約30万個 |
| 生涯で排卵される数 | 400〜500個 |
37歳を過ぎると減少のスピードはさらに加速し、残り約1,000個になると閉経を迎えるとされています。
つまり、40歳の女性の卵子は40年前に作られた細胞です。
精子が日々新しく作られるのとは、根本的に事情が違います。
質の低下の正体は、染色体の分配エラー
では「質が下がる」とき、卵子の中で何が起きているのか。
卵子は受精の前後に減数分裂という細胞分裂を行いますが、年齢を重ねた卵子ではこのときに染色体の分配エラー(不分離)が起こりやすくなります。
その結果が、受精しにくい、受精しても胚が育ちにくい、着床しにくい、流産しやすい、という形で表に出てきます。
日本生殖医学会は、流産の70〜80%は胎児側の染色体異常が原因だと解説しています。
着床しないことも流産も、多くの場合は「胚側の要因」だったわけです。
これを知ったとき、私は少しだけ救われました。
移植のたびに「私の体が赤ちゃんを受け入れなかった」と自分を責めていたからです。
責めるべき相手は、自分の努力不足ではありませんでした。
何度移植しても着床しない「反復着床不全」とは
良好な胚を複数回移植しても妊娠に至らない状態は、反復着床不全(RIF)と呼ばれます。
世界共通の定義はまだありませんが、日本産婦人科医会の解説では、おおむね良好胚を3〜4回以上移植しても妊娠しない場合が一つの目安とされています。
原因は大きく2つに分かれます。
- 胚側の要因(染色体異常など)が全体の6〜7割
- 子宮側の要因(慢性子宮内膜炎、着床時期のずれ、子宮内環境など)が3〜4割
子宮側は検査で原因が見つかることがあり、治療して妊娠に至るケースも実際にあります。
一方、検査をひと通り受けても異常が見つからない場合、残る可能性として大きいのは胚側、つまり卵子の質の問題です。
私も慢性子宮内膜炎の検査や着床時期の検査を受けましたが、結果はすべて「問題なし」。
安心と絶望が同時に来る、あの感覚は今でも覚えています。
着床前検査(PGT-A)という手段もある
胚側の要因を調べる方法として、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)があります。
移植する前に胚の染色体の数を調べ、異常のない胚を選んで移植するための検査です。
日本産科婦人科学会の管理のもと、反復着床不全や反復流産を経験した方などを対象に、認定を受けた施設で実施されています。
移植あたりの妊娠率を上げる効果が期待できる一方、実施施設や対象には条件があります。
そしてもう一つ、知っておいてほしい現実があります。
年齢が上がると、検査の結果「移植できる正常な胚が一つもない」という事態が起こり得ることです。
検査は胚を選ぶ手段であって、卵子の質そのものを改善するものではありません。
「卵子の質を上げる」情報を調べ尽くして分かったこと
治療中、私はサプリや食事法の情報を山ほど集めました。
ミトコンドリアに効くというサプリ、抗酸化物質、糖質制限、鍼灸、温活。
一つずつ試しては、次の周期に期待する。
その繰り返しでした。
ただ、編集者の職業病で出典をたどっていくと、行き着く先はいつも同じでした。
日本生殖医学会の一般向け解説には、加齢による卵子の質の低下を防ぐ方法は今のところない、とはっきり書かれています。
睡眠や栄養、禁煙といった生活習慣を整えることに意味がないとは言いません。
採卵の結果が周期によって違うのも事実です。
それでも「これで卵子が若返る」とうたう商品に、学会が認めるレベルの根拠があるものは見つかりませんでした。
お金と時間には限りがあります。
私がこの事実に向き合えたのは40代前半になってからで、もっと早く知りたかったというのが本音です。
データで見る、年齢と体外受精の現実
日本産科婦人科学会は、全国の体外受精の治療成績を毎年「ARTデータブック」として公表しています。
年齢別のグラフを見ると、胚移植あたりの妊娠率は30代半ばから下がり始め、40歳を過ぎると下げ幅が大きくなります。
流産率は逆で、40歳を超えると急な右肩上がりです。
グラフの中に自分の年齢の位置を探すのは、正直つらい作業です。
それでも、次の治療方針を考えるうえで、この一次データを一度見ておく価値はあると思っています。
保険適用には年齢と回数の上限がある
2022年4月から体外受精は保険適用になりましたが、誰でも何回でも使えるわけではありません。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 年齢 | 治療開始時に女性が43歳未満 |
| 回数(40歳未満) | 胚移植 通算6回まで |
| 回数(40歳以上43歳未満) | 胚移植 通算3回まで |
回数のカウントは採卵ではなく胚移植の回数です。
制度の詳細はこども家庭庁の不妊症・不育症支援のページで確認できます。
40代で治療している方にとって、「43歳の壁」と「残り回数」は常に頭のどこかにある数字だと思います。
私自身、残り回数を指折り数えながら移植に臨んでいました。
第三者から卵子提供を受けるという選択肢
若い卵子なら、妊娠率は年齢に左右されにくい
調べていく中で、私が最後にたどり着いたのが卵子提供という選択肢です。
若いドナーから提供された卵子と夫の精子を体外受精させ、その受精卵を自分の子宮に移植して、自分で妊娠・出産する方法です。
興味深いのは、日本生殖医学会が「卵子の質」を説明する際に、卵子提供の治療成績を根拠として挙げていることです。
自分の卵子では年齢とともに出産率が下がる一方、若い女性から提供された卵子を用いた場合は、受け取る側の年齢にかかわらず高い妊娠率が保たれる。
妊娠率を決めているのは子宮の年齢ではなく卵子の質である、ということを示すデータです。
だからこそ、体外受精を重ねても結果が出ない人にとって、卵子提供は医学的には合理性のある次の一手になり得ます。
海外では確立した治療として広く行われています。
日本の法制度。生まれた子の母は「出産した女性」
気になるのは法律と戸籍の扱いだと思います。
2020年に成立した民法特例法(生殖補助医療法)により、第三者の卵子を用いた生殖補助医療で子どもを出産した場合、出産した女性がその子の母と定められました。
卵子提供で生まれた子は、法律上、出産した妻の実子として戸籍に入ります。
法律の内容は法務省の解説ページにまとまっています。
一方で、卵子提供の実施ルールそのもの(誰がどこで提供できるか、子どもが出自を知る権利など)を包括的に定める法律は、2026年7月現在まだ成立していません。
関連法案は国会に提出されたものの、廃案になった経緯があります。
国内の医療機関で受けられるケースが限られているのはこのためで、実際には海外での治療や、仲介エージェントを介した形が中心になっています。
エージェントの情報は、一次情報で確かめる
卵子提供を検討する場合、多くの人はまず仲介エージェントを探すことになります。
ここで元編集者として、一つだけ助言があります。
この業界には、中立的な口コミや第三者のレビューがほとんど存在しません。
体験者の絶対数が少ないうえ、デリケートなテーマなので、実名で体験談を発信する人はまれです。
私が検索したとき、「評判まとめ」として出てくる記事の多くは広告表記付きのPR記事でした。
だからこそ、エージェント選びでは公式サイトの一次情報を自分の目で確かめる作業が欠かせません。
私が情報収集のときに確認したポイントを挙げておきます。
- 運営会社の所在地・設立年・代表者名が明記されているか
- 費用の総額と内訳、追加費用が発生する条件が具体的に書かれているか
- ドナーの年齢基準や審査基準が開示されているか
- 治療の流れ(渡航の有無、期間、国内クリニックとの連携)が説明されているか
- 無料カウンセリングで、リスクやデメリットも含めて説明してくれるか
たとえば卵子提供エージェントの一つであるモンドメディカルの評判やプログラム内容を見ると、費用の目安(250万円台〜)、ドナーの年齢基準(21〜35歳)、治療の流れといった情報が公式サイトで開示されています。
こうした一次情報を複数のエージェントで見比べて、無料カウンセリングで疑問を直接ぶつけてみる。
契約を急がず、この手順を踏むだけで判断の質は大きく変わります。
治療を続けるか、別の道を選ぶか
私は最終的に、治療を卒業する道を選びました。
卵子提供も真剣に検討したうえでの結論です。
だからこの記事は、卵子提供を勧めるための記事ではありません。
自分の卵子での治療を続ける、卵子提供を受ける、養子縁組を考える、夫婦二人の人生を選ぶ。
どれも等しく尊重されるべき選択です。
ただ、選択肢の存在を知らないまま時間だけが過ぎていくのは、一番もったいない。
5年間の治療を通じて、私はそう感じています。
それから、夫婦の温度差の問題にも触れておきます。
我が家の場合、卵子提供について私が調べ始めたとき、夫は「そこまでしなくても」という反応でした。
温度差があること自体は責められません。
情報量が違えば、見えている景色も違うからです。
私たちは、調べた資料を共有して、お互いの気持ちを書き出して、時間をかけて話し合いました。
結論を急がせないこと。
これが、あの時期を乗り越えられた一番の理由だったと思います。
判断の材料を集めて、パートナーと何度も話し合って、納得して決める。
納得して決めたことなら、どの道を選んでも、その後の人生で自分を支えてくれます。
まとめ
長くなったので、要点を整理します。
- 卵子は胎児期に作られて以降増えず、37歳を過ぎると数の減少が加速する
- 加齢による質の低下の正体は染色体の分配エラーで、着床不全や流産の主な原因になる
- 学会の見解では、卵子の質の低下を防ぐ確立された方法は今のところない
- 保険適用の体外受精には「43歳未満・胚移植通算3〜6回」という上限がある
- 若いドナーの卵子を用いる卵子提供では、年齢にかかわらず高い妊娠率が報告されている
- エージェント選びは中立的な口コミが少ないため、公式サイトの一次情報の確認が欠かせない
判定日のたびに落ち込んで、それでも次の周期に向けて立ち上がる。
その繰り返しの中にいる方が、この記事で「次に何を調べればいいか」を少しでも掴めたなら嬉しいです。